今回の調査で見えた3つの技術テーマ
1.医薬品・医療データの統合と安全な活用
臨床試験データ、電子カルテ、製造記録、化合物データ、ゲノムデータなどは、施設や企業ごとに保存形式や管理方法が異なる。さらに、患者プライバシーや研究情報の機密性を確保する必要があり、AI学習に利用できる大規模で統一されたデータセットを構築することは容易ではない。
関連技術として、異なるデータベースを連携するデータ統合基盤、匿名化、フェデレーテッドラーニング、合成データ生成などが挙げられる。今回の調査では、富士通株式会社、日本電気株式会社、株式会社日立製作所などが関連技術に取り組む企業として整理された。
今後は、患者情報や研究データを外部へ移動させずにAI学習を行う技術や、異なる施設のデータを安全に横断利用する技術が注目される。
2.創薬・製造現場における暗黙知のAI化
創薬候補の選定、実験条件の調整、培養工程や製造条件の設定では、研究者や製造技術者の経験に基づく判断が重要な役割を担っている。一方、こうした判断基準は言語化されにくく、人材の異動や退職によって失われるリスクがある。
関連技術として、ナレッジグラフ、エキスパートシステム、自然言語処理による知識抽出、製造条件の最適化AIなどが挙げられる。今回の調査では、武田薬品工業株式会社、株式会社島津製作所、富士フイルム株式会社などが関連企業として整理された。
日本企業が蓄積してきた実験記録、製造条件、品質評価、技術者のコメントなどを組み合わせることで、独自の学習データと知財を形成できる可能性がある。
3.規制対応を見据えた説明可能AI
医薬品の安全性・有効性や品質に関する判断では、AIの精度だけでなく、どの情報を根拠に結論を導いたのかを説明できることが重要である。判断過程が分からないブラックボックス型AIは、研究者や医療従事者による検証、品質保証、承認審査での説明を難しくする。
関連技術として、説明可能AI(XAI)、判断根拠の可視化、不確実性の定量化、医師・研究者向けの説明インターフェースなどが挙げられる。今回の調査では、株式会社Preferred Networks、日本電気株式会社、オリンパス株式会社などが関連技術に取り組む企業として整理された。
今後は、AIが提示した候補や判定結果だけでなく、判断根拠、信頼度、使用したデータの範囲まで確認できる技術が、医薬品・バイオ分野でのAI実装を支えると考えられる。