今回の調査で見えた3つの技術課題
1.現場データの不足・不統一
化学プラントでは、設備の老朽化や計測機器の世代差により、データ形式、精度、取得頻度が統一されていない場合がある。バッチ生産では、原料、温度、圧力、反応時間などの条件が変動しやすく、AI学習に必要な質と量を備えたデータの確保が難しい。
関連技術として、IoTセンサー統合、エッジコンピューティング、データレイク、OPC-UAに対応したデータ連携などが挙げられる。今回の推定分析では、2019年以降、年間200~300件程度で増加する傾向が示された。
三菱ケミカル株式会社は、プラント内の多様なセンサーデータを統合する技術や、データ前処理の自動化に取り組んでいる。住友化学株式会社は、バッチプロセスの時系列データと品質データを結び付ける技術を開発している。株式会社日立製作所は、製造業向けIoT基盤を化学分野へ展開している。
2.熟練者の暗黙知のデータ化
化学反応の微妙な色調変化、設備の音や振動、触媒劣化の兆候など、製造現場には熟練技術者の五感と経験に依存する判断が多く残っている。こうした判断は言語化・数値化が難しく、人材の退職による技術流出とAI学習データの不足につながる。
関連技術として、画像認識、音響解析、振動解析、作業動作分析、ナレッジグラフなどが挙げられる。今回の推定分析では、2020年以降、年間100~150件程度で増加する傾向が示された。
富士通株式会社は、熟練者の判断過程をAIで再現する技術や、視覚・聴覚情報を組み合わせる解析に取り組んでいる。日本電気株式会社は、異常音や振動から設備状態を判定する技術を開発している。旭化成株式会社は、化学プロセスにおける熟練オペレーターの操作パターンを学習する技術に取り組んでいる。
3.AI判断の説明可能性・信頼性
化学プロセスでは、AIの判断が設備の運転、安全性、製品品質に影響する。現場への導入には、予測結果だけでなく、どのデータを根拠に判断したのか、予測の確実性はどの程度かを確認できる仕組みが必要である。
関連技術として、説明可能AI(XAI)、因果推論、不確実性の定量化、予測根拠の可視化、信頼度スコアの算出などが挙げられる。今回の推定分析では、2021年以降、年間50~80件程度で増加する傾向が示されたが、ほかの2領域と比べて出願は相対的に限定されている可能性がある。
株式会社日立製作所は、製造業向け説明可能AIや判断根拠の文書化に取り組んでいる。株式会社NTTデータは、他産業向けに蓄積した説明可能AIを製造分野へ応用している。国立研究開発法人産業技術総合研究所は、因果推論に基づく説明生成技術を研究している。